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設計・監理:多田正治/多田正治アトリエ + 遠藤正二郎/ENDO SHOJIRO DESIGN
 
  田舎暮らしを始めてみる。
  精華町の古民家 の場合
 
  「古民家の改装ってできますか?」。ある日、突然そのような相談を受けた。
現在一般的な賃貸物件に住む40代のご夫婦で、小学生と中学生のお子さん2人のいるご家族だったが、奥さんが昔から古民家への強い憧れがあり、いつか実現したいとのことだった。
聞けば、京都の精華町という場所に築100年以上の古民家を土地付きで購入して、リノベーションして住むことは現実的だろうか?ということだった。
 
 
現地調査時の建物写真
  1. 工事費のこと
まず、工事費がいくらかかるのか?
中古物件をリノベーションする際は、既存の内装を剥がしてみないとわからない、ということがある。精華町のケースの場合は、まだ物件を購入する前だったので十分な解体を行うこともできず、また古民家という特殊な物件ということもあり、一般的なリノベーションより不確定要素が多かった。
そこで、施工会社の協力のもと、腕利きの大工と調査。現状で出来る限りの試算と、想定される問題点を徹底的に洗い出した。さらに工事中にどうしても見積時以外の追加工事が必要になった時も想定し、基本設計やコンセプトを変えることなく減額可能な、幅を持たせた設計を行った。後で追加請求が発生することだけはないよう、頭をひねり続けた。
 
  2. ローンについて
古民家を改装するためのローンを組もうとする。希望としては、リフォームローンではなく住宅ローンを組みたい。
だが、資産価値は土地のみで、建物は(銀行的には)ゼロと判断され、それを担保に住宅ローンを組めるところは限られた。
実際に「精華町の古民家」ではローンの専門家に、銀行と建築主の間に立ってもらうことで、粘り強い交渉によって最終的に一般の住宅ローンで資金調達が可能となった。やはり特殊な案件でも担当者レベルでの話し合いをじっくり行えば、不可能ではないし、そういった案件が増えつつある昨今、今後はよりスムーズにいくようになるだろう。
 
  3. 実際の工事
土地と家屋を購入し、さあ着工!
床や天井を剥がすと、やはりいくつか問題点が明らかになる。「精華町の古民家」の場合、裏山との位置関係や土地の地下水位の関係で基礎の周りに水が集まりやすい地形であったようで足元の木材がすべて痛んでおり総取り替えとなった。
 
 
工事中の建物写真
 

4. 現場での創意工夫
「精華町の古民家」では既存の土間部分には、主要な構造である太い梁が低く設置されており、これを排しすべてバリアフリーフロアにすることは不可能だったので、既存土間を利用した開放的な土間空間をつくることにした。
土間を横切って、トイレや水回りに行くことになるので、日本庭園にあるような飛び石を並べて、そこを渡れるようにしようという話になった。さっそく裏山に入り手頃な石をいくつか探し(裏山も購入した土地の一部)運び出して、実際に並べながら、レイアウトデザインを検討。
また建築主の奥さんの実家でかつて使用されていた、「はたおり機(丹後ちりめん)」の陶器製の丸い輪っかのパーツを土間に埋め込むことにした。これは、実際に奥さんやお子さんが埋め込む作業を担当、新しい土間に昔の道具の味わいがミックスされ、愛着の持てる、家族にとって大切な空間になった。
他にも、天井や縁側に使われていた木材の一部など、剥がした既存建物の材料を出来る限り流用し、古いものの再利用による歴史の継承とコスト削減とを同時に目指している。

 
 
土間に埋め込んだ飛び石と磁器パーツ
  5. そして完成
依頼から、金額の調整、そして工事と、トータルで1年半にわたるロングランもいよいよフィナーレ。
完成して、地元の住民の方をご招待して、オープンハウスを開催した。2日にわたり、のべ100名以上の方々が来場され、中の空間を体験して頂いた。子どもの頃にこの家で遊んだことがあるというおばあちゃんが、古く朽ちつつあった民家が、新しくリノベーションされたことで再び人が住めるようによみがったことに、感動し涙を浮かべられていたのが印象的だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
以上、竣工写真と竣工映像
 

8. 生活が始まる。
竣工してから「精華町の古民家」に何度かおじゃまする機会があった。
工事の時は手つかずだった庭も、少しずつ手入れされている。薪ストーブのために、薪が割られて乾燥して保管されている。夏の昆虫採集に沢遊び、田んぼの手伝い、シソを収穫してシソジュースをつくり冬になれば雪で遊び、ストーブの炎を家族で眺めつつ、お餅を焼く。都会のくらしとは、ちがった古民家での生活が、今日も営まれている。

 
 
 

9. 京都にセカンドハウスを
「東京に住んでるんですが、京都にセカンドハウスを持ちたい。」最近、このような話を聞くことがよくある。
精華町のように京都の郊外の古民家を改装したり、京都らしい市内の町家を改修してセカンドハウスにする。サクラの醍醐寺や、紅葉の東福寺の庭園巡り。祇園祭りや五山送り火を眺めたり、雪景色の鞍馬・大原も良いだろう。夢は膨らむばかりである。「果たして実現は可能なんでしょうか?」。いざ、その夢のリアリティを漠然と考えると、とたんにトーンが落ちる場合が多い。しかし、上記の精華町のケースのように、お金のこと、設計のことなど、きちんと順番に具体的に整理して一つひとつ解決していけば、現実的なヴィジョンが見えてくる。

 
 

10. 京都の物件事情
「京都の町家」が手に入るのだろうか?そんなに市場にでているのだろうか。
京都には空き家となっている町家が、実はたくさんある。空き家になっている理由は、単に受け継ぐ人がいなかったり、新たに建築するには条件が悪すぎたり(いわゆる建築不可)。どうしようもなく、放置されているものが多い。また、本格的・伝統的「京町家」にこだわらないのであれば昭和の町家(これだって、十分魅力的である)、古いビルなどリノベーションすれば、立派に甦る物件は多数存在するのだ。
また町屋などの場合、改装して残すということに対して、京都市から補助金が受けられるケースが多い。知恵と工夫によって、計画がぐっと現実的になってくるし、どんどん取り壊されていってる京都の伝統的な町屋を救う手助けにもなる。

 
 

11. 京都に住み始める。
念願のリノベーション町家のセカンドハウスが完成する。関東から京都まで、新幹線で3時間足らず。
京都ならば、自動車よりも徒歩や自転車、公共交通機関の方が移動しやすい。京都を堪能したら、大阪や神戸、奈良に足を伸ばしてもいい。ホテルや旅館に宿泊するのも旅の醍醐味であるが、住まう拠点がある、と言うのは旅の意味や感じ方をとても変えてくれるだろう。

 
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